インプラント治療を終えてしばらく経った頃、「なんとなく金属の部分が見えてきた気がする」「歯ぐきが前より下がっているように見える」と気づく方がいらっしゃいます。インプラントは人工の歯根を用いた治療であるにもかかわらず、なぜ歯ぐきが退縮するのか、不思議に感じる方も多いのではないでしょうか。このページでは、インプラント周囲の歯肉が下がる原因と、その後の対処について詳しくご説明します。

インプラント周囲の歯肉が下がるとはどういう状態か
インプラントは、チタン製の人工歯根を顎の骨に埋め込み、その上にアバットメントと呼ばれる土台を介して人工の歯冠を装着する構造をしています。治療が完了した直後は歯ぐきとの境目が整った状態ですが、時間の経過とともに歯ぐきの位置が下がり、金属部分(アバットメント)が露出して見えてくることがあります。
これはインプラント特有の問題ではなく、天然歯でも起こり得る「歯肉退縮」と呼ばれる変化です。ただし、インプラントの場合は天然歯とは構造が異なるため、歯肉が退縮した際の見え方が特に目立ちやすく、患者様本人も違和感を覚えやすい傾向があります。
歯肉が下がる主な原因
インプラント周囲炎による骨吸収
最も注意が必要な原因がインプラント周囲炎です。これは、インプラント周囲の組織に細菌感染が生じて炎症が起こる状態で、歯周病と似たメカニズムで進行します。炎症が続くと歯ぐきが腫れ、やがて下支えとなる骨が吸収されていきます。骨の高さが失われることで、それに伴って歯ぐきの位置も下がります。
インプラント周囲炎は初期に自覚症状が乏しく、気づいたときには骨吸収がかなり進んでいることもあります。治療後の定期的な検診を怠ると、こうした変化を見逃してしまうリスクが高まります。
骨量・歯肉の厚みの不足
インプラントを埋め込む部位の骨量が少なかったり、周囲の歯ぐきの組織が薄かったりする場合、治療後に歯肉退縮が起きやすい条件が整っています。特に審美的な観点から問題になりやすいのが前歯部で、骨や歯ぐきの厚みが奥歯に比べて少ないことが多く、わずかな変化でも見た目への影響が出やすい部位です。
治療計画の段階でこうした条件が見極められていれば、骨造成や結合組織移植といった処置を組み合わせることで、退縮を起きにくくする手立てを講じることができます。
噛み合わせや清掃不足
インプラントにかかる噛み合わせの力が偏っていると、特定の部位に負担が集中して骨や歯ぐきに影響が及ぶことがあります。また、インプラント周囲の清掃が不十分な状態が続くと、プラーク(歯垢)が蓄積して炎症の引き金となります。天然歯と比べてインプラント周囲の組織は防御機能が限られているため、清掃の質がそのまま組織の安定に直結しやすいという特徴があります。
歯みがきはしているつもりでも、インプラントと歯ぐきの境目や隣接する歯との間に汚れが残っていることは少なくありません。
見た目への影響と患者様が感じる変化

歯肉退縮が進むと、まず金属色のアバットメント部分が歯ぐきの縁から見えてくるようになります。笑ったときや話しているときに目立ちやすく、特に前歯付近では審美的な問題として患者様が強く気になるケースが多いです。
さらに退縮が進むと、歯冠の根元部分が長く見えて、隣の天然歯との見た目のバランスが崩れてきます。インプラント自体は機能していても、見た目の変化によって治療への満足度が大きく下がってしまうことがあります。こうした変化は一度起きると自然には元に戻らないため、変化に気づいた段階での受診が重要です。
再発・進行を防ぐために日常でできること
歯肉退縮を防ぐ上で日常的に取り組むべきことは、まずインプラント周囲の徹底した清掃です。インプラントと歯ぐきの境目は特に汚れが残りやすく、通常の歯ブラシだけでは不十分なことも多いです。歯間ブラシやフロスを活用して隣接部の汚れを取り除くことが、炎症予防の基本となります。
歯ぎしりや食いしばりの癖がある方は、就寝中にマウスガードを使用することで、インプラントへの過剰な力を分散させることができます。日中の食いしばりについては意識的にあごの力を抜く習慣を身につけることが助けになります。喫煙はインプラント周囲の血流を悪化させ、炎症への抵抗力を下げるため、できるかぎり控えることが組織の安定につながります。
定期検診で早期に変化を把握することの重要性
インプラント周囲の変化は、患者様自身では気づきにくいものがほとんどです。骨吸収は見た目の変化として現れるよりも先に内部で進行しており、歯ぐきが目に見えて下がり始めた頃にはすでにある程度の骨が失われているケースも少なくありません。定期的に専門家に確認してもらうことで、こうした変化を早い段階でとらえることができます。
退縮の程度が軽いうちであれば、清掃指導や噛み合わせの調整、インプラント周囲の専門的なクリーニングによって進行を食い止めることが期待できます。一方、骨吸収が著しく進んでしまった場合は、骨造成や外科的処置が必要になることもあり、対処が複雑になります。
当院では、インプラント治療後の定期的な状態確認を行っています。「歯ぐきが下がってきた気がする」「金属部分が見えてきた」と感じている方も、まずは現状を確認するためにお気軽にご来院ください。早めにご相談いただくほど、対応できる選択肢も広がります。
